2013年3月31日日曜日

ファイルもお忘れなく!




















今回の恵分社の展示では、三冊のファイルを資料として用意しています。

一冊目は『スポーツニッポン』誌に1974年1月から5年間、毎週日曜日に連載されていたイラスト・エッセイ「浮世絵」シリーズのコピー。当時の風俗を反映した、バラエティ豊かな美女画が楽しめるのはもちろん、上村一夫の女性観が伺えるエッセイも興味深く、「おんなを描いた作家・上村一夫」のエッセンスが伺える資料としても貴重です。

二冊目は上村一夫自身が登場している、当時の雑誌記事のファイル。「同棲時代」で時代の寵児となり、漫画・カルチャーシーンからテレビ業界まで、交友関係も広かった上村一夫だけに、メディアへの露出も多かったようですが、今回はその中から内容的にも興味深いものをピックアップしてみました。

そして三冊目は『ヤングコミック』の表紙ファイル。上村一夫は70年代を中心に多数の雑誌の表紙を手掛けましたが、なかでも『ヤングコミック』では1969年7月から1980年5月までの約11年間、260号に渡り、毎回様々な構図や色彩でバリエーション豊かな美女画を描きました。レイアウトを担当した岩尾収蔵との相性も絶妙で、文字情報の入れ方やサイケデリックな色彩もシビれるカッコよさ。デザインに興味のある方はぜひともご覧になってください!


先日、来場してくれた知人は、これらを三時間かけて熟読したそう。ぜひ時間に余裕をもっていらしてくださいませ!


2013年3月30日土曜日

花見の季節























「モダニスト 上村一夫の世界」が始まって、初めての週末。おりしも京都は桜が満開を迎え、本日はおだやかな快晴。まさに最高の花見日和となりました。

普段は煩雑な日々に追われ、微妙な季節のうつろいなど気に留める余裕もない、という人も、この時期になると急に心がソワソワと浮き立ち、桜の開きぐあいを毎日神妙に確認してしまうのではないでしょうか。

日本人にとっての桜のシンボリックな意味性は、いまさらここで説明するまでもないけれど、酒飲みにとっては、桜を口実にいい大人同志が芝生にシートを広げて昼間っからおおっぴらに酒を飲み食いできる、そのささやかな非日常感こそ、なによりの花見の醍醐味だったりもします。






















さて、上村一夫の作品にも、印象的な花見シーンがいくつか登場します。
たとえば「菊坂ホテル」。ホテルの娘である主人公の八重子が上野の不忍池で竹久夢ニ親子と花見をするくだり。「京都の桜の方がきれいだよね」という息子の言葉に、かつて共に京都で暮らした彦乃を思い、心をかき乱される夢ニ。そして、翌年、同じ場所で谷崎潤一郎やお葉と花見をする八重子…。























また「狂人関係」では、花見に浮かれ騒ぐ人々をエレファントカシマシの「上野の山」よろしく、醒めた目で眺めやり、「人々が普段の生活に戻り、街がもとの落ち着きを取り戻す今の季節が、いちばんほっとする」と語りあう、酒を愛する男二人のエピソードが。他にも上村作品には、酒を愛した上村一夫らしく、酒呑み名シーンが多数。ぜひ太田和彦さんあたりに解説していただきたい…!



上村一夫と桜は最高の組み合わせ。かつて桜の季節、上村一夫が取材旅行で京都を訪れた際もやはりというか、取材はそこそこ、花見酒と相成ったそうです。

恵文社で上村作品をじっくり堪能した後は、ぜひ京の桜で花見と洒落込んでみてはいかがでしょう。



2013年3月26日火曜日

はじまりました





















「モダニスト 上村一夫の世界」本日10時よりスタートです。

70年代初頭、「同棲時代」で社会現象ともいえるブームを巻き起こした上村一夫。もともとは絵の道を志し、美大卒業後はフリーのイラストレーターとして活動を始めた彼は、盟友・阿久悠との出会いにより、劇画家となって以降も、さまざまな企業広告や雑誌・レコードジャケットなどの仕事に携わり続けました。今企画は、そんな上村一夫のイラストレーター/デザイナーとしての側面にスポットを当てようというものです。その諸作を通じて発揮された、広告デザイン出身ならではのモダンでグラフィカルな構図や色彩感覚は、様々な分野で新しい表現が生まれていた60~70年代の空気を如実に反映すると共に、唯一無比のオリジナリティにあふれ、今なおヴィヴィッドな魅力を放っています。すでに上村一夫の作品に親しまれている方もそうでない方も、上村一夫の知られざる魅力を“発見”していただければ幸いです。



昨夜、東京から原画を手に駆けつけた上村オフィス汀さんと恵文社スタッフの方々と搬入作業。筆跡も生々しい原画を手に、ああ、上村一夫がこれに触れ、魂を注ぎ込んだのね…と内心ドキドキしながら額装し、壁にレイアウトしてゆきます。本や小物はアンティ—クの本棚やガラスケースを使って展示。40年もの歳月を経た作品たちが、恵文社さんならではのアンティークな空間と絶妙にマッチしてます。

本日初日は平日になりますが、11時前から上村オフィスの汀さん(上村一夫の娘さん)が在廊。いろいろ貴重なお話が伺えるかと思いますので、皆さま、ぜひお越しください。



2013年3月19日火曜日

花粉病の季節

春の陽気に誘われて街へ出ると、行き交う人のほとんどがマスク姿。こんな情緒もへったくれもない光景も、いまや日本の春の風物詩と呼ぶべきものなのでしょうか。

さて、こんな季節に思い出されるのが、『同棲時代』収録の「水中花」と題されたエピソード。もうすぐお嫁にいくからと今日子のもとを訪れた、郷里の女友達。彼女は今日子の留守中、次郎に「あたしほんとは結婚なんかしないんです、あたしお嫁に行けない身体なんです」と、自分が花粉病(!)であることを打ち明ける。

「あたしがほっとできる季節は冬だけーーいつも部屋の中でじっとしてなくちゃいけないんです」 花がとても好きなのに本物の花はさわれもしない彼女が、唯一、愛せる花は「水中花」だけ。「あたしみたいなんて考えて自分を慰めているんです」


これを初めて読んだ当時(90年代半ば)は、へえ、そんな病気があるんだ、と思った記憶があるのですが、まさかこんな一億総花粉症時代が訪れるとは…。

美しいもの、愛すべきものの裏に秘められた残酷さを「花」に託し、ロマンチックにせつなく描き出した、上村一夫。花粉症はいまやお嫁にいけない病気などではなくなったけれど、彼が生きていたら、こんなマスクだらけの風景をどう見ただろう…と、ふと想像してしまう春の日なのです。


2013年3月18日月曜日

「上村一夫 愛の世界」入稿!


「モダニスト  上村一夫の世界」展にあわせて作っていた小冊子が、今朝、ようやく入稿完了しました。

展覧会が上村一夫の「モダニスト」な側面にスポットを当てようというものなのに対して、こちらは「愛」をテーマに、その作品世界をディープに読み解こうというもの。展示と冊子、両方あわせて上村一夫という作家の全体像が浮かび上がるという仕掛けです。

『同棲時代』に代表される、純粋ゆえに壊れやすい男女の愛から、『悪の華』を頂点とする、人間の欲望原理を追求した猟奇倒錯の愛まで、その作品を通じてさまざまな「愛」を描き続けた、上村一夫。

今回、寄稿者の方々には、いわゆる解説や批評ではなく、上村一夫を通した個人的体験や妄想偏愛をとお願いし、綴っていただきました。上村作品の魅力はもちろん、各々の恋愛観や人生観までもが伺える、濃密な内容となったのではないでしょうか。


また、上村作品における愛を読み解くための10のキーワードを設け、
それぞれ、これぞ愛!これぞ上村!な名ゼリフ・名シーンを抜粋した企画ページも。
今の時代に生きる私たちのなかにヴィヴィッドに息づく上村エッセンスを
ぎゅっと抽出した必読の一冊です。


展覧会初日の3月26日(月)から恵文社一乗寺店にて、先行限定販売いたします。
ぜひ、展示とあわせてどうぞ。


*************************

『上村一夫 愛の世界』
編集・発行:井口啓子(Super!)
72ページ 1000円




イントロダクション
ページから愛が奔り出す………井口啓子

インタビュー
恋愛のマスターピース………曽我部恵一

寄稿
『同棲時代』の思い出~今日子に憧れた十九の頃………甲斐みのり
誰が上村世界を撮れるのか?………岸野雄一
ぎりぎりの女たちの美しさ………雨宮まみ
他人の私小説………aCKy(面影ラッキーホール)
わたしのなかの上村一夫………渚ようこ
上村一夫から遠く離れて………豊田道倫
私と今日子と母と………植本一子
この人、意外につまらない男よ………キングジョー
上村一夫の歌声はレコードの上………足立守正


特別企画:愛の風景
あれも愛、これも愛、たぶん愛、きっと愛…。
愛の作家・上村一夫が描いた「愛」の珠玉シーン

*************************