2013年1月18日金曜日

はじまりは同棲時代


 





 個人的な上村一夫との出会いは、遡ること17〜8年前。サニーデイサービスの『若者たち』のジャケットに記された、たくさんの漫画や映画のクレジットの中に“『同棲時代』上村一夫”の文字があった。そして当時、文庫で出ていた『同棲時代』を入手。次郎と今日子の愛の世界に魅了されたのでした。(ちなみに文筆家の甲斐みのりさんも「若者たち」がきっかけで、上村一夫を手に取ったそう。私たち世代のある意味、スタンダード?)

 そもそもはガロ系漫画家の安倍慎一が美代子(安倍作品のミューズで後に妻となる)と暮らす阿佐ヶ谷のアパートを訪れた上村一夫が、二人の暮らしぶりに感銘を受け、作品化のヒントを得たという『同棲時代』は、'72年に連載が開始すると同時に、若者たちの新しいライフスタイルの象徴として一大ブームを巻き起こしたといいます。そして現在、結婚しない男女関係が珍しくなくなり、“同棲”という言葉はいまやノスタルジックなムードすら漂わせているけれど、仕事も恋愛もセックスも、二人の未来も宙ぶらりんゆえに美しく儚い若者たちの愛の物語は、なんら古びることなく読む人の心を揺さぶるのです。

私自身、二十歳の頃には次郎と今日子のひたむきな愛に憧れはすれど、今日子の狂気までは到底理解できなかった。それが三十路になって読むと、今日子の苦悩が痛々しいほど沁みたり、愛から逃れようとした次郎の弱さ(なのか?)に共感したり。また結婚して子供ができた今再び読み返すと、以前はスルーしていた今日子と母の愛憎にぐっときたり。読む人の年齢や立場によって、いろんな読み方ができるのも、上村作品の深イイところ。

 ちなみに「同棲時代」は現在までに何度も再販されていますが、ヴァージョンによって収録作品が微妙に異なり、装丁もそれぞれに素敵なので、すべて集めたくなります。
 上村作品を未体験の方は、まずは「同棲時代」を入り口にしてみてはいかが?



 


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